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なぜiPhoneはソニーにもノキアにも作れなかったのか(日経BP)

posted at 01:30:19 on 2007-01-20 kaz | Category: オンモード

日経BP社の技術経営メールにて私のコラム 「なぜiPhoneはソニーにもノキアにも作れなかったのか」 が1月19日に配信された。

このコラムは、日経ベンチャー 経営者倶楽部のHPにも「ソニーにもノキアにも作れなかったワケ」と題して掲載されている。

このコラムには書かなかったが、Macworldに出展していた私の知り合いの社長によると、Macworldの会場でソフトバンクの孫氏がスティーブ・ジョブスに会おうとして会えなかったらしい。もう日本のキャリアのiPhone争奪戦が始まっているようだ。


nikkei BPnet


以下、再掲する。

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■■なぜiPhoneはソニーにもノキアにも作れなかったのか■■
アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)が1月9日、同社のイベ
ントであるマックワールドにおいて、「iPhone」と呼ぶ携帯電話機を発表した。
単にアップルがコンピュータとiPodに加えて携帯電話に進出したということではない。
「技術経営」や「ものづくり」という観点から見ると、二つの際立った特徴が見て取れる。
一つは、製品コンセプトの作り方であり、もう一つは囲い込み戦略である。

まず、製品コンセプトについてまず考えてみよう。iPhoneはアップルが作ったスマー
トフォンである。欧米に行くと、かなりの人がスマートフォンを使っているシーンに
出くわす。このスマートフォンはパソコンとインターネットに親和性の高い基本
ソフト(OS)が搭載された小さなコンピュータであり、インターネット接続ができ、
携帯電話機能が搭載されており音声通話もできる。

一番有名なスマートフォンは、カナダのRIM社が開発・販売するブラックベリー
だろう。米国の街中で、小さなフルキーボードを親指で操作している人を見かける
ことがある。携帯電話機最大手のノキアは、E61というスマートフォンを発売して
おり、日本でもE61をSoftbankとNTTドコモに対応させた製品を投入している。
ウィルコムもW-ZERO3を販売しており、かなり話題になった。

スマートフォンの特徴は、パソコンとの親和性が高いことだ。パソコンにあるスケ
ジュールや電子メール情報と同期をとりながら、各種のビジネスアプリケーションを
モバイルで利用できる点がビジネスパースンに重宝がられている。ただし日本では、
スマートフォンはまだまだニッチ商品である。携帯電話機などの端末機器はメーカー
ではなく各通信事業者が販売し、その端末は他の通信事業者では使えないという、
国際的には特殊なビジネスモデルをとっているためだ。

話をiPhoneに戻すと、この機種はスマートフォンに分類されるべきものである。
しかし、製品コンセプトは先行したビジネス用途主体のスマートフォンとはまったく
違ったものといえるだろう。例えばそれは、タッチパネルを使用した斬新な
利用方法とデザインや、アップルのパソコンMacの基本ソフトを搭載したことに
現れている。つまり、ビジネスパーソンにとどまらず、MacユーザやiPodユーザと
いった一般のコンシューマをも取り込むエンターテインメント性を備えているのだ。
ジョブズCEOは、iPhoneの発表と同時に、社名を「Apple Computer Inc.」から
「Apple Inc.」に変更することを発表した。コンピュータ・メーカーではなく、
情報家電メーカーとして自らの立ち位置を明確にしたのである。

本来なら「スマートフォンをリードするメーカー」というポジションは、ソニーを
はじめとする日本メーカーが占めてよいはずだ。ところが、いつしかその地位を
海外メーカーに明け渡してしまった。世界の動きを見ずに自分の殻に閉じこもって
しまったことが一つの原因だろう。だが、日本メーカーがiPhoneを生み出せない
理由は、それだけではないような気がする。

一般にプロダクトを開発する場合のアプローチとして、「できるものを作る」方法と、
「作るべきものを作る」方法がある。単にできるからと言って製品を世に出しても
成功は難しい。手堅くビジネスで成功するためには、市場を調べて、作るべきものを
作るアプローチに頼ることになる。メーカーの多くはこの観点からプロダクト
マーケティングを行っている。こうすれば、優等生的な製品は作れる。その代わり、
作り手の特徴は薄れ、極論すれば他社並みで面白みに欠けるが製品に仕上がる
傾向が強くなる。

この視点でアップルをみると、「作るべきものを作る」という発想で製品を開発
しているわけではないように思う。もちろん、「できるものを作る」でもない。
自らムーブメントを生み出す手法を取っている。すなわち「作りたいものを作る」
である。経営トップによるコンセプトメーキングに基づき、経営トップ自らが
プロジェクトに参画するトップダウンの手法だ。

日本メーカーに限らず、ノキア、サムスン電子、モトローラといった世界の携帯電話
市場を牛耳っているメーカーも、海外でスマートフォンを販売しているソニー・
エリクソンにも、iPhoneのような製品は作れなかった。それなのにアップルは開発
できたのは、経営トップが作りたい製品や事業コンセプトを明確に打ち出し、形に
するまで自ら関与していく姿勢を打ち出したからだろう。iPhoneを発表したマック
ワールドで、ジョブズCEOは2年半に及ぶ開発の苦労を語り、「最後の半年は家族
と夕食を共にできなかった」とスタッフはじめ関係者に感謝の意を述べ、涙ぐんだ
という。

次に、二つ目の特徴である囲い込み戦略について議論してみたい。製品の目新しさに
隠れてあまり目立たないが、iPhoneにおいてアップルは、この戦略をうまく利用する
仕掛けを用意している。

ちなみにiPhoneという商標は、インターネット用通信機器メーカーのシスコが
取得している。アップルとシスコは、商標の使用について話し合っており、合意に
近づいていたとされるが、合意前にアップルがiPhoneという名称を用いて製品を
発表してしまい、シスコがアップルを提訴する事態になっている。

争う両社の製品戦略は正反対と言えるだろう。相互運用が必要なネットワーク機器を
製造するシスコは、オープンな規格に基づいて製品を作るアプローチを重要視
している。これに対してアップルは、自社開発の技術を厳密に管理する手法を
伝統的に好む。代表的な製品であるパソコンのMacシリーズもそうで、
Windowsパソコンとは異なり、ハードウエアからOSまで、アップルが独占的に
管理していた。

iPodでも、排他的な囲い込み戦略を踏襲した。アップルのiTunes Storeからダウン
ロードした楽曲は、iPod以外のプレーヤでは使用できないようにしたのだ。この
iPod機能がiPhoneには組み込まれている。こうすることで、iPodとiTunes Store
という音楽と映像の配信サービスで囲い込んだiPodユーザをiPhoneに誘導しよう
としているのだ。

こうした排他的な囲い込み戦略は、いつも成功するわけではない。アップル自身、
Macではこの戦略が裏目に出て苦杯をなめた。携帯型音楽プレーヤの世界でも
失敗例はある。ソニーのデジタル方式ウォークマンは当初、独自規格のダウンロード・
ファイルしか再生できない仕様になっていた。ところが市場は広がらず、同社は
この路線をその後放棄している。

囲い込み戦略の本質は、「一度そのユーザーグループに入ったら抜けられない」
という構造にある。かつての例でいえば、VHSとベータの規格並立時代を思い出
せばよいだろう。ベータ方式のテープはベータ方式の機器でしか再生できない。
だから、一度ベータ方式の機器を買えば、ベータ方式テープとしてコンテンツを
蓄積することになる。こうした資産が発生するから、ユーザとしては買い替えの
たびに、次はVHS、またベータという具合に機種の方式を切り替えるわけにはいか
ない。だからこそ、どのグループに属するべきかをユーザは悩む。その躊躇を振り切る
ほどの魅力が発揮できなければ、ユーザは獲得できない。そして、ユーザが獲得でき
ない独自路線ほどみじめなものはないだろう。

その点、アップルはソツがなかった。iPodという、デザイン的にも機能的にも卓越
したハードウエアの魅力に頼り切ることなく、MacとWindows パソコンの双方に
対応するiTunesというソフトウエアを用意し、さらにタイミングを計りながら
iTunes Music Store(現在は iTunes Store)という配信サービスを立ち上げた。魅力
を次々と示しながら、短期間で圧倒的な数のユーザを獲得したのである。

ハードとソフトを組み合わせたトータルなビジネス展開で、アップルは一大
ムーブメントを作りユーザを囲い込んだ。その戦略を前進させ、獲得したユーザを
そっくりiPhoneに導こうというわけだ。同社は2008年以降、iPhoneの世界展開を
目論む。メーカー直販がほとんど実現していない日本の携帯電話市場で、日本人に
馴染みの薄いスマートフォンをどのような戦略で売っていくのだろうか。一方、
世界市場で振るわない日本メーカーは、日本市場という「最後の砦」をどのように
守っていくのだろうか、興味は尽きない。

生島 大嗣 (いくしま かずし)
アイキットソリューションズ代表
http://www.i-kit.jp/

大手電機メーカーで映像機器などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に
取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。既存企業、ベンチャーのビジネスモデルと
技術の評価、技術戦略と経営に関するコンサルティング、講演などに携わる。
現在は、イノベーション戦略プロデューサーとして活動中。

執筆しているコラムのバックナンバー
http://www.i-kit.jp/biz/category/blog/9
生島ブログ「日々雑感」
http://www.i-kit.jp/biz/category/blog/7
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アイキット ソリューションズ
生島大嗣

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Comments

がし wrote:

Las VegasでCESを見て回っている時にiPhoneの発表を知り、どうしても現物を見たくなりMacWorldへ行ってきた者です。何故か無数の新製品が展示されているCES会場より閑散とした(最終日午後だったからかもしれない)中にもiPhoneのプレゼンテーションに1時間以上も200-300人近くの人々が釘付けになる魅力を感じざるを得なかった。
 比較的裕福なサンフランシスコという土地柄もあるが、お年を召した方々もかなり多く(時間も多いのだろうが)プレゼンもかなりの詳しい且つ簡単さを意識した操作性の訴求には途中で席を立つ人もいず、予想通りの期待を裏切らない出来具合であった。
そのためにキャリアであるCingular(後にAT&Tに名前が戻ると発表あったが)とのシステムソフトの変更もせずには実現出来ない使用法など、アップルならではのハードのソフトの変更のみには限らない、根本的なところから企画の見直しをした点は今の日本企業には無い戦略の立て方である。
 このようなパラダイムから根こそぎ改革するような企画提案はどうしたら出てくるのか、またそれを戦略として成立させ事業化検討まで進める腕はアップルしか出来ないのか。
 あまりにも日頃のルーティンワークにこだわるビジネスが多いのでは無かろうか、少なくともアップルなど2-3年先の企画をし、製品を作ってきているわけで、その技術レベルはさほどすごいとは思わないが、常に3G/3.5Gさらにはその上の携帯技術を追いかける日本企業より成功する、少なくとも一消費者として期待をしたい会社になるのは至難の業なのだろうか。

2007-01-21 12:28:16

生島大嗣 wrote:

がしさん
コメントありがとうございます。

>  このようなパラダイムから根こそぎ改革するような企画提案はどうしたら出てくるの
> か、またそれを戦略として成立させ事業化検討まで進める腕はアップルしか出来ないの
> か。

これは仰るように日本のメーカーの人間なら大抵の人がぶつかる課題だと思います。
技術力の問題ではありません。製品・技術価値創造は得意でも、事業価値創造には弱い日本メーカーの抱える大きな特徴だと思います。

先日、あるベンチャー社長と話していたのですが、iPodの技術力はさほどではないと言うと驚いていました。これも問題です。普通のエンジニアならすぐに気付く筈ですが。

さて、どうすればよいかですが、昔の日本メーカーは、例えば闇研に代表されるような下からの(多くはミドル層)提案等がかなりありました。しかし、現在はノルマや成果主義に代表されるように、余裕、遊びがありません。それなのにトップの明確な指示やコンセプト提示は相変わらず少ない状況です。

米国では、大企業のトップがよくアイデア創造、コンセプトメーキングを行います。
もしくは、事業/製品コンセプトが明確なベンチャーを買収する場合があります。
これをプロフェッショナルに課題として与え、戦略立案から実行まで順番に落としていきます。一種のモジュール化です。

日本の企業は、このアイデア発想とコンセプトメーキングがなかなかできない。だからこれを受けて立案すべき戦略がうまくできないと感じています。
私の現在の仕事は、この部分から入ることが多いです。
それができて初めて戦略立案が可能になります。

残念なことに大抵の企業ではこの部分が抜けていて、市場調査に基づく戦略立案が行われています。ですから、せいぜい「作るべきものを作る」方法に落ち着き、通常のマーケティング手法で製品を企画してしまいます。だから他社と横並びのものしかなかなかできないという結果になります。

前回の「三洋電機が生き残るための三つの方法」にも書きましたが、これを是正する方法としては、逆説的ですがトップダウンによる自律/自立の風土、組織を全社的なプロジェクトで作る方法しかないのではと感じています。

「作りたいものを作る」「やりたいことをする」という切り口でしか他を凌駕するコンセプトを作ることは難しいと考えています。
アップルでは、トップであるジョブスが積極的にこのプロジェクトを「作りたいものを作る」という姿勢で引っ張ることで、このような製品/事業コンセプトが生まれたのだと思います。

日本では、トップが明確なコンセプトを作ることは少ないのですが、もう一度ミドル層がコンセプトを提案できる仕組み、風土をトップ主導で作ることが非常に重要だと考えています。
如何でしょうか?

最近ある一部上場企業が、トップの交代のタイミングで上述の「三つの方法」を実践して、赤字を3年で解消しました。なによりミドル層が自ら立案し実行する過程で、下を向いて歩いていた社員が胸を張り自信を持つようになったことが印象的でした。

2007-01-21 17:12:01

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