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安易にサプライチェーンを開いてはいけない(日経BP)

posted at 11:43:13 on 2010-01-27 kaz | Category: オンモード

日経BP 日経Tech-On! 技術経営戦略考に私の論文記事「安易にサプライチェーンを開いてはいけない」が掲載されました。


nikkei BPnet

尚、この記事はただ今日経BP 「Tech-On!」ランキング1位になっています。(27日現在)

以下に再掲します。


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 最近赤字が続くメーカー各社の方から、これからは自社のサプライチェーンを開いてEMSやOEMを活用することでコストを下げていくアジアの競合各社が採っているビジネスモデルに転換する方向がよいのではないかという声をときどき聞くことがあります。

 しかし、サムスンや最近ではシャープからの液晶パネル供給に頼るソニーのテレビ事業が赤字をなかなか脱却できないのはなぜなのでしょう。そしてこのような前例があるのに、単にサプライチェーンを開くだけで充分なのでしょうか。

 この議論は、今の日本の停滞した産業をどのように再生するか、自社の建て直しをどのように行っていくかという議論に繋がる重要な鍵だと思います。今回はこのポイントについて考えていきたいと思います。

 リーマンショック後の日本では停滞ムードが支配しています。しかし電機産業などの分野では、世界市場のパイは確実に増えているのです。日本企業だけが停 滞している感は拭えません。一方海外を見ると、サプライチェーンをオープンにして成功している例が発展の著しいアジア諸国をはじめ多く見受けられます。そ れが前述の意見を生む原因でしょう。

 私は企業の成長戦略を手がける関係から、特に新しい事業のコンセプトや戦略構築に関していろいろな企業とよくディスカッションを行いますが、その話題の多くは今ある成熟した事業でいかに利益を出すかという問題です。

 最近やっと日本独自の技術やビジネスモデルに固執するのではなく、世界標準に合致した技術や製品を世界、特にこれから成長するアジア、そして将来 はアフリカ諸国までを視野に入れて売っていこうということをよく耳にします。こういう意識の変化は停滞を抜け出すための第一歩として大いに歓迎すべき方向 だと思いますが、問題はその戦略だと思うのです。

 論点を明確にするために、次の二つについて考えていきたいと思います。一つ目は、単にサプライチェーンをオープンにして世界標準を採用するだけで よいのか、日本企業はどういう戦略を採っていくべきかという点です。二つ目は、ではその戦略を実現するために、どのような施策を行っていかないといけない かという点です。

 まず一つ目の論点について考えます。

 前述のサプライチェーンをオープンにすべきという意見ですが、そのためにきちんとしたバリューチェーンを作らないといけないという意見が続きま す。ところが具体的に何をするかという議論になると、どうしても技術力やブランド、デザインというポイントしか出てこないのです。

 他社とのとの差別化が必要なのはみなさん分かっていますが、その差別化要因を技術力やブランド、デザインに頼るというわけです。実際、日本企業 は、これらを軸にした差別化に何度もトライしています。ただし、これまで華々しい成果を上げているとは必ずしも言えません。前述のソニーのテレビ事業も、 その大きなブランド価値に助けられて急速に液晶テレビ事業を立ち上げることができました。しかしながら赤字をなかなか脱することは難しいという事実があり ます。

 日本以外のアジア製の製品は、日本人から見ると低機能で、品質、信頼性に多少問題があるように映ります。日本は高機能を追い求めてきたことは周知 の事実です。ところがここに至って低機能でそこそこの品質の製品が、発展途上国を中心に爆発的に広がり、日本が得意とする高機能の製品に比べて、そこそこ の品質の製品に世界市場の多数派の消費者の目が向いています。

 その多数派の価値観と日本企業の方向性にずれができてしまっていることに気が付いたのは重要なことです。しかしながらそのずれは、アジア諸国との価格差の解消だけを追い求めても、技術力やブランド、デザインを前面に出しても吸収できるとは思えません。

 つまり単純にサプライチェーンをオープンにするだけでは、価格競争に巻き込まれるばかりで、勝てるわけではないのです。日本企業は、やはりアジア諸国に ない新しい差別化要因を用意するしかないと考えています。例えば、これまでにない製品コンセプトやビジネスモデル、サービスとの連携といった手段です。

 ところが、私が新しい発想に基づく他社にないオリジナリティーのある製品・サービスの重要性に言及すると、必ず反論されます。これもよく出てくる 意見ですが、これは市場が成長曲線の右肩上がりにある場合や、企業の創業期や成長期に実現できることで、我々のように成熟市場でビジネスを行っている場合 は難しいという声が聞こえてくるのです。

 それは正しいのでしょうか。

 右肩上がりの創業期・成長期の企業は、そのような立場にあるから創造力を発揮してオリジナリティーのあるビジネスモデルを作ることができるわけではありません。その逆で、これは創造力を発揮した結果のひとつだと考えるべきなのです。

 アジア諸国の企業は、必ずしも新しい発想に基づくオリジナリティーのある製品・サービスで勝負しているのではありません。しかし、サプライチェー ンをオープンにして、そこそこの品質の製品を安価に製造するという新規のビジネスモデルを作り上げることで成長を果たしました。

 それをそのまま真似しても日本企業が勝てるとは思えません。付け焼き刃でサプライチェーンをオープンにしても、アジアの競合に勝つために充分なコ スト競争力を得られるとは考えられないのです。重要なことは、差別化をどこで確実なものにして自社のビジネスモデルに活かしていくかであって、それを必ず しも得意でないコスト競争だけに求めるのは無理があると考える方が妥当です。

 アップル社のiPodの例を見てみましょう。iPodが市場に出てきた時期は、ポータブルオーディオは、小さく成熟した安定・成熟期であったと言 えます。パソコンの周辺機器としてポータブルオーディオは発展していました。そこにiTunes Storeによる画期的なコンテンツビジネスと連動させたiPodが出てきたのです。

 みなさんご存知のように、iPodは価格競争力だけで市場を得てきたのではありません。今では、どちらかと言えば価格は高いが売れているという構図でしょう。

 iPodのハードウエア自体は汎用部品と技術を使っています。ただしiTunes Storeによるコンテンツ配信というビジネスコンセプトは、当時他社を凌駕するものがあったのです。こうした差別化要因があった上で、洗練されたデザイ ンや若者をターゲットにした宣伝戦略が功を奏しました。これがiPodの競争力の源泉ということに異論はないでしょう。

 iPodのハードウエア自体のサプライチェーンはオープンです。しかし、その卓越したビジネスモデルの根幹を成す製品やコンセプト、デザインを生 み出す仕掛け、つまり製品コンセプトの創造プロセスや重要なソフトウエア技術を、アップルは決してオープンにしていません。ここにiPodの強みがありま す。つまりアップルは、新しい発想で創造したビジネスモデルで他社と差別化し、他社にないオリジナリティーを前面に押し出して、他社が先行していたポータ ブルミュージックプレーヤーの市場をあっという間に席巻してしまったと考えられるのです。

 もうひとつ例を挙げましょう。

 サムスンは基本的にサプライチェーンを閉じていて、かつ大幅な成長をしています。今までのサムスンは、技術面では先進国企業、特に日本のキャッチ アップを追及していけばよかったと言えるでしょう。自らが基礎研究をしなくてもよかったというコスト面での優位性もありました。

 その代わりに同社は、世界各国で消費者が求める製品が何なのかを、細部にわたって徹底的に追求しました。その結果、見事に市場の要求に即した製品を作っ てきたことが同社の急成長を支えていると思います。同社のある社員は、サムスンの製品は「中国製より高機能・高品質だけど、中国製より高い」とネガティブ に受け取られるのではなく、「中国製より高いけれど、中国製より高機能」とポジティブに受け取られるように、微妙なさじ加減をうまく行っていると言ってい ます。今では、例えば有機ELの研究開発など、技術面でも部分的には日本より進んでいると自負しています。

 日本企業のようにサプライチェーンを閉じたビジネスモデルを採るサムスンでは、成長期の市場の波に乗り、各地の市場のニーズにうまく合わせること が成長の礎になっていると思います。これは液晶の供給を全て他社に頼るというオープンなサプライチェーンを築いているソニーのテレビ事業が赤字を脱却でき ないのとは対照的です。

 以上をまとめると、技術力、デザイン、ブランドだけでは成長の要因としては充分ではなく、サプライチェーンを単にオープンにするだけでもこれを解決できないケースもあるということです。

 次に二つ目の論点を考えます。他社と差別化したオリジナリティーのある製品・サービス戦略を実現するために、どのような施策を行っていかないといけないかという点です。

 サムスンの場合サプライチェーンは閉じていますが、逆に人的資源はオープンになっています。日本からも、日本企業をキャッチアップする過程で多くの人材を採用してきました。

 もちろん今では単なるキャッチアップのためではなく、先進的な研究開発のために多国籍の人材を抱えています。サムスンの技術開発の現場では、韓国語と英語を使用するという、日本企業よりもグローバルなダイバーシティー(多様性)を備えているのです。

 サムスンにあって日本企業にないものは、トップダウンによる迅速性とダイバーシティーでしょう。組織的には、日本的な終身雇用で保証されている社 員と、身分の持続性の保証がなくいつ解雇されるかも知れない責任と権限を持たされた取締役という、一見相反する概念をうまく共存させているのも特徴です。 実は彼らの本質的な強みはここから生まれているのではと思っています。先取の気風に溢れるシリコンバレーにあるアップルも、日本企業に比べて人的リソース のダイバーシティーが大きく、新しい戦略を次から次へと生み出すスピードを備えていることは言うまでもありません。

 これに反して日本企業の多くは合議制で、迅速な決定ができません。さらに今まではダイバーシティーを排してきました。確かにこれまではこのモデルで成功してきました。皮肉なことにこの結果、日本的な感覚から抜け出せず世界市場のニーズにうまく対応できなくなっています。

 日本は、全てを言わなくてもお互い分かり合える、世界でも特異な社会であると言えます。英語で表現すると、ハイコンテクスト(high context)の社会です。思考様式や歴史を日本人同士で共有してきたことが原因ですが、これから本当の意味でグローバル化を達成する上で、この構造が 阻害要因になっていると思うのです。加えて、右肩上がりの時代に経験してきた成功体験から、よいもの、すなわち自分たちの考えるよいものは売れる、売れて きた、これからも売れるという思い込みかあるのです。これが、これから成長する国々の市場をうまくターゲットにできない大きな原因だと私は考えています。

 これらの阻害要因を取り除くためには、人的資源をオープンにしてダイバーシティーを積極的に取り入れるしかありません。私は欧州のとある成長を続けるグ ローバル企業を内側から見てきた経験があります。トップダウンの指揮系統と共に、世界各地から人材を登用し、クロスファンクション組織とダイバーシティー をうまく活用してターゲットに合う商品を開発している現場を見て、いわゆる日本流のビジネス手法とまったく違うことに驚きを禁じえませんでした。

 ダイバーシティーは何をもたらすのでしょうか。それは様々な視点と経験です。

 何か問題があると、一般に人は自分の経験、成功体験に照らし合わせ、自分に都合よく解釈できるように事態を理解する傾向があります。解決法が知ら れている既知の問題の場合は、その経験、成功体験を共有すればするほど、すなわち社会がハイコンテクストであればあるほど、効率よく対処できるでしょう。 しかし、今までにない問題や、場合によって問題自体に気付かない事態が多く起こりうる昨今では、解析的・直線的に見えている問題を解くだけで答を得られる という従来の発想では限界があります。過去の経験を応用する方法では、ターゲットのニーズに応えてビジネスを上手く回すことができないのです。

 これからは、他社の気付かない問題を自ら発見し、それを解くことにより新しいビジネスモデルを創造していくという、問題設定型のアプローチが求め られます。そしてこの問題設定型アプローチは均質化した人的リソースからではなく、ダイバーシティーのある組織からもたらされるのです。ダイバーシティー のある組織により、今までの成功体験で捉え切れない多様化した市場のニーズをうまくつかむことは、今の日本企業が身に付けていかないといけない大きな思考 様式、アプローチ法だと考えます。

 日本企業は、今までの成功体験から抜け出し、ターゲットを明確化して自社のオリジナリティーを活かした製品・サービスでどのように差別化していく かを考える時期に来ています。そのためには、単にサプライチェーンを開いてコスト競争力をつけるという安易な考え方は禁物です。ダイバーシティーを大事に して、新しい問題を設定し解いていくというアプローチで、他社と差別化できるビジネスモデル、製品、サービスを創造していかなければならないと思うので す。

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アイキット ソリューションズ
生島 大嗣 (いくしま かずし)

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