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MSがYahooを欲しがるワケ

posted at 01:17:47 on 2008-05-07 kaz | Category: オンモード

5月5日にMSがYahooの買収を残念しました。

少し前、4月の3日に書いた原稿です。
私なりの解釈で書いています。
よろしければどうぞ。



■■ MSがYahooを欲しがるワケ ■■

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「ネコにワンと鳴けと言ってもニャンとしか鳴かない」。ある知人の口癖である。短い一文ながら、いろいろなことを示唆してくれる。「その人、その会社ができる以上のことを期待してはいけない」ということもあるだろう。さらには「ある目的を遂行するためには、正しい手段を用いないといけない」ことも教えてくれる。つまり、「犬が必要なら犬を探せ」ということではないか。

ジャスティン・メンクス氏も著書『経営知能-リーダーは育てるより、探し出せ』の中で同じ指摘をしている。最適な人材に教育し直すより、適した人を探し出した方がよいと。人材だけでなく、人は購買という行動において、本能的に最適な製品やサービスを探そうとする。その結果、多くの人に求められることが商業的には好成績を収めることになり、そのことが世の製品やサービスに求められるようになるというわけだ。

今回は、ワンと鳴くためには本当にワンと鳴く犬を連れて来さえすればうまくいくのかという視点からいろいろと検証してみたい。

電機業界ではこのところ、韓国や台湾、中国勢の台頭が目立つ。これは「ワンと鳴く企業」を消費者が探した結果といえるだろう。では最適な製品、サービスを提供できなくなった企業はどうなるのだろうか。結果は明らかある。停滞と衰退が待っているのだ。
では、停滞と衰退に陥った企業はどうすればよいのだろうか。

先日、マイクロソフトがYahooに買収を提案し、Yahooがこれを拒否したという一連のニュースが流れた。そこには興味深い背景がいくつも隠れていると感じている。一方で、昨年から日本の電機業界の再編に関するニュースが多く流れているが、日米の事例を対比して考えると、とても興味深い。

ビジネスの業態がどのようなものであれ、成長が止まり、停滞し、さらには業績が悪化している企業に対する処方箋は基本的に二つしかない。「リストラ」と「新事業開発」である。Yahooのような新しいIT企業も老舗電機メーカーも、この原則から外れることはない。

マイクロソフトがYahooを買収しても相乗効果はないと論じている記事を見かけるが、そうだろうか。そういった記事に見られるのは、フリーメールやメッセンジャーのユーザーでメジャーになっても2番手の企業が組んでもGoogleのような斬新なビジネスにならないといった現状での分析による論調だ。しかし、非常に速いスピードで変化している業界である。果たして5年後、いや3年後にどうなのだろうか。

90年代前半には、マイクロソフトはインターネットに見向きもしなかった。しかし世の中がインターネットに流れると見るが早いか、あっという間にIEというブラウザを開発して自社のOSに搭載してしまった。当時、これだけのことができたのは、社内のインターネットに興味を持つグループをリストラせずに抱え続けていたからこそだろう。その姿勢は評価されてもよいと思う。

技術情報を自社内でクローズし、それを強みにしてこれまで成長してきたマイクロソフトは今その舵を大きく切ろうとしている。クローズな囲い込みではなく、技術をオープンにする勢力が市場の支持を得てきたことを受けてのことだろう。

マイクロソフトはそれまで敵対してきたシリコンバレーを中心とする勢力に徐々に新事業の芽を封じられてきている。これを打破するためにマイクロソフトが打った手がシリコンバレーの企業であるYahooの買収ではないか。単なる現在の勢力バランスやユーザーの囲い込みではなく、シリコンバレーのオープン戦略という風土を自社に取り込む布石ではないかと思うのだ。

即ち、クローズドからオープンという戦略の転換に必要な新事業の「可能性」の要素としての人材や技術を内部に抱える意味合いがあるのではないだろうか。可能性がないところからは何も生まれない。正に可能性をリソースとして内に抱えて新たな事業モデルの種として生かしていくための新事業創造の思考が働いていると感じている。

もう一方の、電機業界の再編に関していえば、それは起こるべくして起こったと言えるだろう。発展途上国での市場の急成長に伴い製品自体だけでなく設計技術までもがコモディティー化するなか、価格競争力という武器を失い、台頭するアジアのライバルに対してなかなか有効な手が打てなかったというのがこの数年の状況である。

こうした事態にあって、今後の市場拡大が見込める携帯電話や薄型テレビといった分野では、競争力を失った企業が事業を整理する動きが加速し、競争力を維持している企業は、競争力強化を目的にM&Aや提携に向けて動き出した。これは、いわゆる「リストラ」である。つまり、停滞期の企業が取るべき二つの手段のうちリストラばかりが目に付くのだ。

事業を立て直すには、まずリストラという手法に目が行くのは否めない。しかし、これだけは覚えておかなければない。リストラでは新しい製品やサービスは生まれてこないことを。だからこそ、まったく新しいコンセプトを生み出す「可能性」の要素をうまく活かす新事業創造の思考法が必要になる。

私は、「事業力」は「ビジネスを生み出す仕掛け」と「コツコツモデルの要素群」との掛け算だと思っている。仕掛けはビジネスの表層に存在し、お金が回るところだ。ビジネスモデルと言い換えてもよいかもしれない。これに対してコツコツモデルの要素は、「技術」「信用力」「実績」「商品」「コネクション」「コンテンツ力」「ブランド」「アイデア創造力」「コンセプトメーキング力」「モチベーション」などといったコツコツと積み重ねていくモデルで生まれる要素が当てはまるだろう。

日本と米国のシリコンバレーを比較してみよう。かの地では、知識と人材と資金が回る土壌が築かれている。大学から優秀な人材が輩出され、人材は横同士のコネクションで繋がっている。成功したベンチャー企業家がVCやエンジェルになる。大学、大企業、ベンチャーを人材と情報が行き来する。技術者、MBA取得者、米国公認会計士、経営者などの「人材市場」がある。このような土壌、風土の中で企業トップが明確な事業コンセプトを出して、またはコンセプトを持つベンチャーを買収してビジネスモデルの構築を行う際は、人材市場から最適なプロフェッショナルを雇う。

つまりシリコンバレーには、新事業開発に必要な「ビジネスを生み出す仕掛け」と「コツコツモデルの要素群」がモジュールになって存在し流通しているのだ。新たな事業を展開するには、このモジュールを組み立てればよい。

しかし、日本にはこれらのモジュールをパタパタと組み立てて事業を組み立てるという土壌はない。技術やビジネスモデルを理解する投資家が極端に少なく、流動性を持つ技術者や経営者のプロフェッショナル人材の市場も貧弱だ。大企業の技術者がスピンアウトして失敗すれば、もう一度大企業にアドバンテージを持って迎え入れられるということはない。

つまり、米国流の必要なモジュール、即ちワンと鳴く犬を集めてきてパタパタとビジネスを組み立てるための土壌がまだまだ日本には充分熟成されていないのだ。

問題は社外の土壌だけではない。例えば、社外からワンと鳴くことのできる優れたエンジニア、海外でのMBA取得者や公認会計士のようなプロフェッショナル人材を連れて来ても社内にそういった人材を受け入れて活用できる制度が整っておらず、社員の意識も希薄なのだ。どこでも自分の才能だけで生きていける自身と才能のある人材は、その会社のために骨を埋めるつもりはない。当然生え抜きの社員との間で意識のずれも軋轢も生じる。

少し前に流行った社員をワンと鳴かせようとした社内ベンチャー制度などもうまく機能しなかった例だろう。企業では社内ベンチャー制度で募集した人材に必要な教育とリソースを与えても、失敗しても元の会社に戻れるという甘い気持ちがあったり、親会社のローカルルールに縛られたりしていては市場原理が強い社外では勝負できない。極論すれは、社内ベンチャー制度は教育システムとしての機能に留まっている。

かつては日本型と呼べる成功モデルがあったと私は思っている。これまで日本の大企業は、ミドル層から上がってきたアイデアをトップ層がダメ出ししながらブラッシュアップし、企業内の技術や人材、資金のリソースを当てはめて新たな事業モデルを自社内で形作ってきた。

しかし、擬似米国型の成功報酬モデルや細分化した領域で自己責任を押し付けるノルマ重視型の賃金体系などを取り入れ、従来の日本型のモデルを自ら破壊してしまった。この結果、大胆、斬新な提案は次々却下され、人心は萎縮し、モチベーションが低下してしまっているというのが多くの技術者が指摘する現状である。つまり、コツコツモデルの「アイデア創造力」「コンセプトメーキング力」「モチベーション」が報われない状況に陥っており、新しい可能性の芽を阻害しているのだ。即ち、これらの可能性の芽を活かした停滞から抜け出るための新事業開発が行われない構造となっている。

もちろんコツコツモデルの要素としての技術開発は懸命に行われていることは百も承知であるが、それ故に業界全体で横並びは崩れない。真面目に懸命に働いてお互いの首を締め合っているのだ。コツコツモデルの中で技術という要素の力が事業力とイコールでなくなってしまっていることに注意しなくてはならない。

それでは、今までにない製品やサービスを生み出し、Googleやアップルのように頭ひとつ抜け出すにはどうすればよいのだろうか。

答は技術力以外の「アイデア創造力」「コンセプトメーキング力」「モチベーション」コツコツモデル要素にあると私は考えている。これらを生み出して育み、それを基にした新しい「ビジネスを生み出す仕掛け」を作り出し、社員が全社で共通の夢とビジョンを持てるようにバックアップすることがこれから本当に求められることなのだ。

このためには、コツコツモデルの各要素を育てる今までにない新しい価値観を共有し、新事業開発の思考法といったものを強化して、これらの努力や挑戦にきちんと報いる制度を作らないといけないし、今までの技術ばかりに目を向ける姿勢も変化させていかないといけない。

トップ層が明確な事業コンセプトを打ち出せない日本企業では、まず従来のようにミドル層からトップ層への提案が出ない状況を変える必要がある。そのためにはトップがポジティブに夢とビジョンを持ちこれらをプラス思考で語り始める必要があるのではないか。

その上でトップダウンでキーマンを選別して集め、自発的に考えて動く環境を与え、積極的に彼らを擁護するのだ。その環境の中で自律、自立できる社員を育て自発的に動ける風土と制度的な環境を作るわけだ。形の上ではカーブアウトに近いものになるかも知れないし、社内プロジェクトになるかもしれない。それはケースバイケースだ。

忘れてはいけないのは、そこから生まれてきたものを全社員が共有できる仕掛けを同時に作ることだ。

こうすれば、シリコンバレーでは比較的簡単にモジュールとして手に入れることのできる「アイデア創造力」「コンセプトメーキング力」「モチベーション」までを包含した全ての「コツコツモデルの要素群」を日本的に代替するものを社内に作りだせる。後はそこから生まれるコンセプトを基に「ビジネスを生み出す仕掛け」を戦略的に作り出せばよいのだ。

マイクロソフトがYahooを欲しがるのは、モジュールとしての技術や経験、発想法を取り込み、彼らの土壌、環境で育み、そこにコンセプトを与えれば新しいものが出てくると経験的に知っているからかも知れない。

日本企業には、「アイデア創造力」「コンセプトメーキング力」「モチベーション」が弱い。それらを育てる土壌も、尊重し守る環境もない。従って、これらを積極的に用意することで、昔の日本型モデルをうまく修正した新しい日本型モデルを作ることができると考えるのだ。

ここで私の提唱する方法がうまく機能した事例をご紹介しよう。

東証一部に上場している東京特殊電線株式会社は最近まで赤字に苦しんでいた。この会社の経営を任された小泉社長は、次世代を担う、やる気のある若手からメンバーを選抜して、10年後のあるべき姿(Vision)を策定し、戦略に展開し、取締役会で承認し、3年で会社を立て直した。社員の自主性を尊重し、ネガティブな発想をする幹部には「私の方針に従えないなら役職から外れもらう」とまでの強い意思を持って取り組んだ。その結果、社員にとって目指すべき方向や目標が明確になり、業績も大幅に改善するようになった

まだ改革の途中とのことで具体的な施策についてはここでは詳しく書けないが、このように、まずトップが覚悟してコツコツモデルの要素である「アイデア創造力」「コンセプトメーキング力」「モチベーション」等が報われる土壌、環境を作りだし、次にこれらを活かして「ビジネスを生み出す仕掛け」を戦略的に作り出せばワンと鳴く犬は現れるということは理解して頂けると思う。

新事業を開発してそれを事業化するには、ワンと鳴く可能性のあるイヌを社内外から探し出して、ワンと鳴けるような環境を作り出してそこで新しいアイデアやコンセプトを育てるしかない。海外企業よりも手間がかかるのは仕方がない。しかし一度その土壌・環境を作り上げてしまえば、次はそのような苦労はいらなくなる。

この新しい土壌でのビジネスを生み出す仕掛けを手に入れるための最初の条件は、トップが新事業創造のためにリスクを恐れず挑戦できるかどうかにかかっていると思うのだ。
電機業界には、リストラだけでなく、新しい時代の新事業開発の思考法を是非身に付けて欲しいと願っている。
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アイキットソリューションズ
生島大嗣

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Comments

takashi wrote:

この合併、結局、MSがあきらめたようですね。
ヤフー側には、自分たちを安く値踏みされたという感情があったのでしょうか?それとも、MS側に、交渉の柔軟さが欠けていたのでしょうか?
果たして、グーグル一人勝ちに、どう対抗するのか、ヤフーにしても、手をこまねいてはいられないはず。
日本でニコニコ動画と手を組んだのも、対抗策の一環でしょうか?

2008-05-10 00:44:28

生島大嗣 wrote:

takashiさん
どうもそのような感じです。

ややこしいのは、ヤン氏の方があれほどMSを毛嫌いしていながら道は残っているなんて言っていること。
シリコンバレー特有のMS嫌いとか、ヤン氏とバルマー氏が性格的に合わないとかうまくいかない理由はいっぱいありそうです。

MSのバルマー氏は戦略とファイナンスが得意と言われていますけど、MSを新たな成長に乗せる道をうまく見つけ出せずにいるようです。
小規模な買収とコツコツと自前で技術とビジネスの開発をするしか道はないように思います。
それで、ネットにシフトしつつある流れに乗れるのか・・・

ハイエナのようなMSの風土は、反トラスト関連当局との攻防でかなり穏やかなものに変わって来ている(大人になった)のも、MSが思い切った手を打てないひとつの原因かもしれないですね。

2008-05-14 01:02:17

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