Syndication
RSS2  RSS2feed

Googleの戦略と三洋の戦略 (日経BP)

posted at 22:58:03 on 2008-01-10 kaz | Category: オンモード

日経BP 日経Tech-On! 技術経営戦略考に私の記事
「Googleの戦略と三洋の戦略」
が掲載されました。

この記事は、
日経Tech-On!のトップページ および
日経BPのトップページ
にもタイトルが掲載されています。(そのうちに消えます・・・笑)

以下、再掲します。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 先日、二つの興味深いニュースが同じ日に流れた。大きな扱いの記事ではないが、二つの戦略の対比が興味深かったのでここで引用したい。

 一つは、Googleが太陽光や風力、地熱などを利用した発電技術といった代替エネルギー開発に数億ドルを投資するというもの。もう一つは、イオンと三洋電機が共同で、イオンのプライベートブランドである「トップバリュ」ブランドの家電を開発するというもので、低価格路線ではなく、省エネとデザイン性の高い商品を目指すとしている。

 Googleの戦略は、同社のコアである技術やビジネス領域から大きく逸脱しているようにみえる。そこに一挙に投資してしまおうというのだから、かなり大胆な戦略に思えるのだ。これは想像するしかないのだが、検索エンジンについて世界中のあらゆる情報を記録、整理するという大胆なコンセプトを打ち出している企業であるから、この新しい事業に関しても、理念やビジョン、事業コンセプトなどは上流のところで彼らなりにきちんと整合は取れているのだろう。

 一方、三洋の戦略は、自社ブランドではなくイオンのプライベートブランドのために家電を開発しようというものである。市場で強力なブランドを持たない同社が、既に持っている家電の開発と製造技術というリソースをそのまま活用し、弱いブランド力をカバーできる戦略はないかと考え立案したものであろう。省エネとデザイン性の高いものらしいが、自社のブランドを拠り所にしたり育て上げたりする戦略ではない。OEMを得意としてきた三洋らしい戦略であり、基本的に今までのビジネスモデルを踏襲している。


■ 戦略と組織

 その良し悪しではなく、どうしてこのような戦略の差が生まれるかということについて、今回は議論してみたい。

 Googleは今や大企業だが、まだ成長段階にある企業である。これに対して三洋は停滞期にある企業だ。このことが戦略に大きく関係していることは異論がないだろう。ではどのように戦略に影響を及ぼしているのだろうか。

 前回のコラムで私は、「組織は戦略に従う」ことを大前提に、戦略の必要性について述べた。戦略とそれを支える組織は表裏一体であり、切り離して考えることはできない。しかし、大前提はまず戦略ありきだと主張したつもりだ。今回の事例は、この大前提とは見かけ上は逆になる。では、「組織は戦略に従う」という前提が間違っているのだろか。

 戦略を実行する際、組織に大きな変化を強いることがある。戦略遂行を行ってきた組織は、過去の戦略遂行によって組織がチューニングされてきているのだ。この組織が企業の理念やビジョンに沿った事業や製品のコンセプトを立案するのであるから、結果的に組織が戦略に影響を与えることになる。すなわち、戦略は組織の理念やビジョンを反映したものであり、戦略遂行によって組織は調整され、結果的に理念やビジョンは影響を受けるわけだ。


■ Googleは強襲型

 最近私が注目している本に『ブレイクアウトストラテジー』(シドニー・フィンケルシュタイン著)がある。これによると、急成長を続けている企業はそうでない企業には決定的な違いがあり、優良企業は瞬時に市場を制することのできるブレイクアウト戦略を採っていると主張している。この本の戦略論を紹介し、前述のニュースの事例に適用して考えてみたい。

 このブレイクアウト戦略は、新技術やサービスでいきなりトップを占める「強襲型」、地方で成功した企業が一気に世界市場を制する「拡張型」、低迷していた名門企業が復活する「巻き返し型」、トップにいる企業が更に市場獲得を目指し変身する「変身型」の4タイプに分類できるという。

 この戦略を実現するための様々な要因について詳しく解説がされているが、その中で、「組織ビジョン」「顧客への価値提供」「ビジネスモデル」「プロジェクトとプログラム」が輪となって連鎖するブレイクアウトストラテジーのサイクルというものが示されている。

 さらには、四つの要素に対して戦略的リーダーシップが影響を与えていることも示されている。戦略の創造や遂行にはリーダーシップを大きな要素として扱っているのだが、それについては後述するとして、まずは前述の2事例をこのブレイクアウト戦略と比較して検証してみたい。

 冒頭のGoogleの例は「強襲型」に相当するだろう。拡張型とみえなくもないが、「まったく違うドメインの市場を狙う」という点を重視してここでは強襲型と分類した。いずれにせよ、Googleはこの戦略でブレイクアウトを目論んでいる筈だ。これを実行し、将来的にエネルギー市場の一角に食い込む算段なのだろう。

 Googleは、1998年に創業した若い強襲型の企業である。『ブレイクアウトストラテジー』でも、行動するプレイクアウト・ストラテジー企業の典型例として取り上げられている。一部を引用してみよう。

「1990年代半ばに同社は超高速インターネット検索とインデックス化に使えるアルゴリズムとソフトウェアシステムを開発した。当時、検索エンジはすでにあったが、Googleのように高速で質問に答えてくれ、しかも検索ワードに対する重要度に応じてランク付けして表示できるものはなかった。貴重な情報に無料でアクセスできることで、Googleが世界中の無数の人々の生活を向上させてきた。

 同社の目標は、世界中の情報を組織化し、どこからでもアクセスできるようにするという、明白にしてこの上なく野心的なものだ。

 そのために同社は、CEOエリック・シュミットのリーダーシップのもと、経験豊富な経営陣を編成し、磐石の金融・商業システムを作り上げて、技術力を補強した。先行企業との提携を通じて、社内の知的資産の強化をはかり、成長市場への進出に必要なネットワークを構築していった。Googleは組織の最終目標として、利潤より社会的目的を優先すると宣言したことに大いに助けられた」

 このようにGoogleは、ビジョンと理念を掲げ、それを戦略に落とし込み、その戦略がうまく機能しているか、市場に合致しているかをチェックしつつ必要があればそれを修正するといった一連のプロセスをうまくコントロールしてきたのである。


■ 重要なのは実行すること

 この戦略を支える組織作りのために、Googleは独自の人材採用方針を持っている。トップ層のペイジとブリンが人事委員会を設けて全ての採用をチェックしているのだ。こうして採用と人事をトップがコントロールして組織の都合による内部抗争を未然に防ぎ、独自の社風を失わないための仕掛けを用意しているのである。

 その仕掛けのひとつが有名な20%ルールだ。Googleでは、就業時間の20%を本来の仕事以外に使うことがルール化されている。この時間で各社員が研究開発した面白い技術やシステムが他の社員の支持を得た場合に社内で公式なプロジェクトになるという。

 このようにGoogleでは、大きな社会的ビジョンを掲げ、先端の技術を拠り所として戦略を構築し、それらを支える組織を意識的に調整している。こうして今までになかった市場を生み出し、そこで圧倒的な支持を得ている。こうした強襲型企業のブレイクアウト戦略を成功させたパターンをGoogleはエネルギー市場でも用いようとしているのだろう。

 豊富な人的リソースと資金、そして何よりも自らが生み出して成功したブレイクアウト戦略の必勝パターンを持ってすれば、また彼等が成功するのはそんなに困難ではないと思える。ここで重要なのは、ビジョンを掲げ戦略を作り上げ、それらをうまく生み出し、回すための組織が計算された形で作られている点だ。そこにはリーダーシップも大きく影響を与えている。

 『ブレイクアウトストラテジー』にはこうも述べられている。「ブレイクアウト・ストラテジーでも、成功のカギは戦略そのものではなく、戦略をいかに緻密に実行するか、である」と。Googleの仕組みは、今のところこれをうまく実践するのに貢献しているように思える。

 さて、この本では大企業にも「強襲型」の戦略は可能だと明言している。この点は、筆者の考え方と少し違う。少なくとも強力なトップダウン型ではなく、過去の成功体験に大きく影響されている停滞期や衰退期の日本の企業にとっては「強襲型」戦略を取るのはかなり困難が伴うと思っているのだが。


■ 三洋の戦略は「ブレイクアウト」ではない

 一方、『ブレイクアウトストラテジー』では、巻き返しの戦略を取った大企業の例についても、日産自動車を初めいくつも取り上げられている。イオンと提携した三洋の戦略は、一見「巻き返し型」の戦略を取っているように思える。しかし、それはブレイクアウトのための「巻き返し型」戦略なのだろうか。この三洋の提携は、厳密に言うと新市場を開拓するものではない。どちらかと言うと単なる企業同士の販路マッチングと考えた方がしっくりくる。当然ブレイクアウトはあまり期待できない。

 もちろん、三洋にとってこのプライベート・ブランド家電の戦略は、数ある戦略の一つに過ぎない。そうだとすれば、会社全体としてブレイクアウト戦略を採らないのはどうしてだろうか…

 三洋は今、エネルギーと環境に資源を集中させていると聞く。それならば、何故家電や半導体といった一度は売却を考えた事業を強い意思で切り離すことを考えないのだろうか。こうした戦略の混在が、企業全体の戦略を不明確なものにしているのではと危惧するのだが。

 三洋は総合家電メーカーとしてその地位を築いてきたが、ソニーや松下といったトップブランドではない。技術力は高いが、右肩上がりの時代、即ち作れば売れた時代に取ってきた戦略にいまだ縛られているのだろう。市場が拡大していたあの時代は、他社と同じ事をしていればよかったが今は違う。経営資源を他社と差別化できる事業分野に集中させて、究極の製品やサービスを求めなければブレイクアウトは手にできない。私には三洋はブレイクアウトを自らあきらめているように思えるのだ。

 そのかたわらで、ブレイクアウト戦略を採ろうとしている企業にソニーがある。最近ソニーは最新の半導体製造ラインの売却を決めた。過去に取った戦略をあっさり捨てたのだ。ソニーはいろいろと注目されているが故に批判にもさらされている企業だが、失敗だと思ったら潔く戦略を修正する潜在力、ダイナミズムが存在している。これを支えているのはやはりリーダーシップと組織の柔軟さではなかろうか。ソニーは常にブレイクアウトを求め、常に大胆に戦略を修正していく。その戦略が組織を再活性させるという好循環を維持しているように思える。

 Googleと三洋の話に戻ろう。これまで述べてきたように、様々な条件により生み出された二つの企業の戦略の違いが、彼らの将来像をさらに大きく変えることになると思う。何故なら、ブレイクアウトを生み出す戦略を取れるかどうかが、企業の将来を左右する大きな要因になるからだ。

 前述のブレイクアウトストラテジーのサイクルをうまく回して、ブレイクアウト戦略を生み出すためには、明確で強いビジョンと柔軟な組織が必要になる。そしてもう一つ、リーダーシップが欠かせない。これらが相互に関係し影響を与え、循環することが重要なのだ。

 繰り返しになるが、企業は「まず戦略ありき」で戦略を立て、実行し、それをフィードバックし、次のビジョンやコンセプトを作り上げるという活動を日常的に行う責務を負う。その中で、組織はそのビジョンや理念に少なからず影響を受けて事業や製品のコンセプトを作ることになる。そして、このビジョンやコンセプトを作る「人・組織」は戦略実行時に、さらに調整されるのである。

 これを繰り返すうちに、「人・組織」の生み出すビジョン、コンセプト、そして戦略は企業ごとに違った特徴を獲得することになる。その結果、Googleと三洋の例のように、それが生み出す戦略の内容が大きく違ってくるのだ。


■ 「優れたリーダー」あればこそ

 これらを理解して、ブレイクアウト戦略に一歩踏み込む勇気が企業のリーダーには欠かせない。ブレイクアウトができるかできないかが、これからの生き残りに多大な影響を及ぼすからだ。前述のブレイクアウトストラテジーのサイクルにおいて、戦略の策定、実行、フィードバックといったサイクルの各プロセスに対してリーダーシップが影響を与えているのはこのためだと思う。

 プロデュース・テクノロジー開発センターというNPOが京都にある。ここでは、「プロデュース」を「何かを思いつくこと」ではなく、「その思いつきを具体的に世に出し社会化するまでの一連の行為」と定義する。そのうえで、このような「プロデュース」行為を、再現可能な「テクノロジー」として手法化し、新たな人材育成プログラムとして研究・開発を進めている。

 この手法を用いて組織の各部門別にプロデュース点をつけ、組織のプロデュース力を客観的・定量的に評価しようとする試みも行われている。同センター代表の渡辺好章同志社大学教授によれば、プロデュース点の高い企業、組織には必ず優れたリーダーが存在するという。優れたブレイクアウト戦略のためには、優れたリーダーは不可欠なのだろう。

「強襲型」戦略を取る成長期の企業だけでなく、「巻き返し型」戦略を成功させた停滞期や衰退期の大企業でも優れたリーダーの顔が見えることが多い。優れた戦略の遂行サイクルの中から優れたリーダーが育ってくるようになれば組織として理想的だが、日産のように外部から優れたリーダーを招き入れ「巻き返し型」戦略を成功させた例もある。

 ただ、それも戦略あってのこと。優れた戦略を生み出すことが企業活動の全ての原点であることは間違いない。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アイキット ソリューションズ
生島大嗣

TrackBack(URL)

トラックバック
このエントリにトラックバックはありません
このトラックバックURLを使ってこの記事にトラックバックを送ることができます。(右クリックでショートカットのコピーをご利用ください) もしあなたのブログがトラックバック送信に対応していない場合にはこちらのフォームからトラックバックを送信することができます。.

Comments

No comments yet

Add Comments