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なぜソーテックを買収したのか?(日経BP)

posted at 18:37:00 on 2007-09-18 kaz | Category: オンモード

日経BP 日経Tech-On! 技術経営戦略考に私の論文記事「なぜソーテックを買収したのか?」が掲載されました。尚、この記事は、日経BP 技術経営メールでも配信されました。

以下に再掲します。

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 エレクトロニクス業界の再編に関する話題が世間を賑わせている。分野によってその進捗度合いに差はあるが、コンシューマ向けオーディオ機器の分野などは、その「最先端」を走っているといっていいだろう。2007年7月、そのオーディオ業界の一員であるオンキヨーがパソコン・メーカーのソーテックを買収するという報道が流れた。そして8月16日に子会社化を完了した。なぜオンキヨーはソーテックを買収したのだろうか。買収して、何をしたいと考えているのだろうか。

 それを考察する前に、歴史的な背景を踏まえておきたい。オーディオ業界は、1970年代には隆盛を極めたが、1990年代に入り構造的な不況に突入した。大小含め相当数にのぼっていたオーディオ・メーカーも、かなり淘汰されてしまった。専業で現在でも存続しているメーカーを挙げれば、ヤマハ、デノン(日本コロムビアのオーディオブランド「デンオン」を持つオーディオ部門が分離し日本マランツと合併)、そしてオンキヨーくらいだろう。ただし、ヤマハはオーディオ専業ではなく音楽産業に広くかかわっている企業である。ちなみに、かつてオーディオ・メーカーとして名を馳せたパイオニアやケンウッドは、現在はオーディオ以外の事業が主力となっている。
衰退はデジタル化とともに

 1990年代に進行したオーディオ業界の衰退は、機器のデジタル化と歩調を合わせるように進行した。かつて高度なアナログ技術を保有していたオーディオ・メーカーは、コンテンツの保存メディアとしてアナログ磁気テープとアナログレコードを用いていた。これらのコンテンツを音源として、その音質を最大限に引き出すためのアナログ技術をノウハウとして各社が蓄積してきたのである。それが企業のコアコンピタンスであり、市場における優位性を保ち他社の参入を防ぐ大きな防波堤となっていた。それがCD(コンパクト・ディスク)の登場によって、あっという間に崩れ去った。

 アナログの時代、レコード針の専業メーカーとして隆盛を誇っていたのがナガオカである。私事で恐縮だが、1979年にナガオカが企画したクイズに応募して当選し、アメリカ旅行に招待されたことがある。このツアーは、ジャズのライブハウスやチャック・ベリーのコンサートなども組み込まれた贅沢なものだったが、30人のクイズ当選者だけでなく販売店などの取引先も多数招待されているという、ずいぶん大掛かりなものだった。当時のナガオカは、競争優位のポジションを占め、経営的にも大成功していたのだろう。

 それがCDの普及を受け、あっという間にナガオカはオーディオ業界の表舞台から姿を消してしまった。音楽コンテンツを保存再生する目的で使われていた技術が、デジタル化というイノベーションで短期間にまったく異なる技術に置き換わってしまい、その結果、業界に大変革が起こったという典型例だろう。

 レコード・プレーヤだけではない。レコードからCDへという流れを受けて、オーディオ業界のビジネスモデルそのものが瓦解の危機に瀕したのである。電子回路のIC化と外販化が進み、音質にこだわった回路を自身で設計しなくても、安価なオーディオ・セットやラジカセでそこそこの音が再生できるようになった。多くの人々が比較的安価な機器の音質で満足し、これを求めた結果、アナログ技術というノウハウの塊だったオーディオ機器メーカーの優位が崩れるという構造変化が進行することになった。

 たとえば、三洋電機は「OTTO」というオーディオブランドを展開していたが、この波を受けて安価な機器を製造する方向に転換、一瞬にしてブランド価値を減じてしまった。総合電機メーカーなら、こうしたことが起きてもたくさんのブランドのうち一つのブランドを失ってしまうだけだが、オーディオ専業メーカーにとっては致命傷になる。オンキヨーもこの例に漏れず、1990年代に入って経営状態が悪化する。同社は、出資比率7割の東芝からの支援を受けていたが、当時の風潮として思い切ったリストラ断行することはできず、製造拠点を子会社化する程度と打つ手は限られていた。当時は、社員も「儲からなくてもやりたいことできればそれでよい」という風潮に支配されていたようだ。

 この後オンキヨーは、1993年に東芝から株を譲り受けた「平成の再建王」大朏直人氏がトップに就任し、本格的な再建に着手することになる。大朏氏がユニークなのは、単に財務面からのみの再建ではなく、オンキヨーのブランドに惚れ込み、製造業としてのオンキヨーブランドを真剣に立て直そうとしているところだろう。


デジタル時代の「生きる道」

 このように、デジタル化の流れを受けて変容を余儀なくされたオーディオ業界だが、現在はこれがもっと加速している。オーディオ単体ではなく、一時期よく用いられた「AV」の「V(ビジュアル)」という領域との融合がその一つだろう。

 その典型が、北米で流行っている「ホーム・シアター」だ。大型の薄型ディスプレイにDVDなどのプレーヤ、サラウンド・スピーカ・システムを付加して、ホーム・シアター・システムへと進化させているのである。1990年代には既に北米で「AVアンプのトップメーカー」との評価を受けていたオンキヨーは、同地域でのホーム・シアターの流行にうまく乗って成功を収め、2003年には株式上場も果たしている。

 ただし欧州では、ホーム・シアターよりは純粋な音響機器としてのオーディオがまだまだ根強く支持されている。日本でも住宅環境の制限があって、ホーム・シアターは普及に至っておらず、薄型テレビ単体の需要が圧倒的に大きい。このため北米以外では、オーディオ専業メーカーが「薄型テレビの勢いに乗じてオーディオ機器の市場を伸ばす」ということにはまだなっていない。

 そしてもう一つの、デジタル化による大きな変化が、パソコンとの連携だ。パソコンと音楽と言えば、今では誰でも米Apple社のiPodが頭に浮かぶだろう。既にオーディオはパソコンとは切り離せない存在になってきている。日本ではこれからだと思うが、米国では音楽コンテンツはCDなどのパッケージではなくネットワークからのダウンロードによって購入することが一般的になってしまった。米国タワーレコードの倒産・廃業がそれを象徴している。

 iPodが成功している理由は、当時パソコンで扱う音楽ファイルの主流だったMP3方式に対応し、「iTunes」を用いた音楽ファイルのダウンロード販売という新しいビジネスモデルを切り開いたことが理由として大きい。

 ただ、一般的な消費者が満足するレベルとしてはiPodやCDの音質で十分なのだが、オーディオ・マニアなど、この音質では満足できないユーザーもいないわけではない。これに対応して、CD以上の音質を求める消費者をターゲットにした「Super Audio CD(SACD、スーパーオーディオCD)」や「DVD-Audio」といった規格が登場したが、ビジネス的に成功しているとは言いがたい。オーディオとして高音質を求める層の厚みが思ったより薄く、パッケージまで含んだビジネスを支えるには足りないということだろう。

 こうした状況を踏まえオンキヨーが採った戦略は、パッケージに頼るのではなく、インターネットを使ったマニア向けの高音質音楽コンテンツの配信ビジネスを構築しようというものだ。これらのコンテンツを利用するためのハードウエアも開発、製造し、高音質音楽コンテンツ産業の中核を担うことを狙う。ドル箱だった北米のホーム・シアターで、DVDプレーヤやAVアンプ、6本のスピーカがセットで5万円を切るような「ワンパケージ」と呼ばれる低価格商品が登場し、市場ではこれに押され始めている。この状況を受けて「次の一手」となるのがこの高音質コンテンツの配信サービスだろう。

 同社は既に、24ビット、96kHzサンプリング(CDは16ビット、44.1kHzサンプリング)、ロスレス圧縮というCD以上の音質を確保できる規格を採用してコンテンツの確保とネット配信を開始している。ファイル形式には、米Microsoft社が開発した「Windows Media Audio(WMA)」を採用した。

 再生用のハードウエアとしては、「HDメディア・コンピューター」の開発を進めており、2006年には「HDC-7」というフラッグシップ機を市場に送り出し、完売している。この機種は、24ビット/96kHzの音楽コンテンツや7.1チャネル・サラウンド再生に対応した高音質アンプ内蔵の HDD/DVDレコーダであるが、面白いことにOSとして「Windows XP Media Center」を採用しており、通常のパソコンとしても使用可能だ。現在は、ビデオ機能を取り去ってオーディオに特化することで安価にした「HDオーディオ・コンピューター」を発売しているが、このことからもパソコンをベースに本格オーディオ機器に挑戦していくというオンキヨーの方向性がうかがえる。主要な基板や回路設計はまったく新規に開発し、鳥取オンキヨーで内製化するという力の入れようだ。

 これらの機器は、米Intel社が提唱するホーム・デジタル・エンターテインメント・パソコンの規格である「Viivプロセッサー・テクノロジー」を採用していることも注目に値する。オンキヨーは、オーディオ機器メーカーとして ViivでIntel社と提携した唯一のメーカーである。

 このようにオンキヨーは、高音質コンテンツ配信サービスとこれらを再生するハードウエアは自社で用意するが、その基盤技術として Microsoft社やIntel社の製品や仕様を全面的に採用している。大手電機メーカーと違い、単独でLSIを開発しプラットフォームを構築できない規模であるオーディオ専業メーカーのオンキヨーの取り得る戦略としては、こうするしかなかったのかもしれないが…。


ソーテックを何に使うのか?

 そこでいよいよ、本題であるソーテックの買収について議論してみたい。これをテーマとする際にまず考えなければならないのは「この買収が戦略的にどのような意味を持つのか」ということだろう。

 まず思いつくのは、HDメディア・コンピューター/HDオーディオ・コンピューターや周辺機器の開発を加速させる効果だ。ソーテックの買収は、Windowsパソコンに習熟している技術者を大幅に増員できるというメリットがある。

 ただ、音楽コンテンツ配信ビジネスに与えるメリットについては見えにくい。パソコンのハードウエアに習熟していることが、必ずしもインターネット上のビジネスモデルを開発/展開する際に相乗効果をもたらすとは限らないからだ。

 では、Windowsパソコンのメーカーであるソーテックを買収したのは、技術者の増員だけを狙ったものだったのか---。筆者は、そうではなく、オンキヨーのビジネスモデルの補強をもくろんでいるのではないかと考えている。一般のパソコンに比べると高価なHDメディア・コンピューターやHDオーディオ・コンピューターを購入するマニア層だけをいつまでもターゲットにしていたのでは、将来の市場拡張は望めない。この状況を打開するために、新たなオーディオファンを獲得する必要がある。このための仕掛け作りにソーテックを活用しようとしているのではないかと思っている。ソーテックのパソコンを高音質の世界へのエントリー機として位置付け、活用するのだ。

 通常のパソコンが備えているオーディオ回路では、高音質で音楽を鑑賞するには荷が重過ぎる。そこには不満があるものの、高価なオンキヨー製品を購入するには至ってはいない。こういったユーザー層にとって、現状ではあまり製品の選択肢がない。そこに向けて、ある程度満足できる音質が得られるパソコンをソーテックブランドで提供し、それを突破口にオンキヨーの新たな顧客層を獲得しようとしているのではないかと、私はにらんでいる。

 以上はまったくの推測だが、この真偽は別としてもオンキヨーの大きな戦略自体は実に合理的だと思う。しかし、腑に落ちない点がないでもない。

 その一つが、HDメディア・コンピューターやHDオーディオ・コンピューターはオーディオ機器を装っているが、一皮むけば通常のWindowsパソコンと変わりないという点である。つまり、買い替えサイクルが長い従来の高級オーディオ機器とは違い、通常のパソコンと同じように、数年といった短いサイクルで機器は陳腐化してしまい、ユーザーは買い替えを考慮せざるを得なくなるだろう。

 もう一つは、オンキヨーの戦略や方向性はよく練られたものだと思うが、半面、ワクワク感というものを感じにくいという点である。基本的に Microsoft社やIntel社の製品や仕様を採用し、得意のオーディオ機器にまとめ上げている。ただ、これらは今ある技術や規格の足し算でしかないようにも思える。つまり、あまりに優等生的な解ではないかと感じてしまうのだ。

 ただ、ソーテックの買収がその始まりであり、観察者の想像力には限界がある。周囲の予想を見事に裏切るような、新たな展開がみえてくる可能性は十分にあるだろう。筆者は、それが起こることを密かに期待しているのである。

著者紹介

生島大嗣(いくしま かずし) アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。既存企業、ベンチャーのビジネスモデルと技術の評価、技術戦略と経営に関するコンサルティング、講演などに携わる。現在は、イノベーション戦略プロデューサーとして活動している。生島ブログ「日々雑感」も連載中。執筆しているコラムのバックナンバーはこちら。

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生島大嗣


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