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メー ルマガジン コラム バックナンバー

  アイキット代表  生島 大嗣 がコラムを執筆しているメールマガジンのバックナンバーです。


 
1. 「技術の経営 − 顧客志向だけでは勝てない」 

      ◆ 技術戦略思考の実現 ◆


2003年 10月 15日

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 技術の経営−顧客志向だけでは勝てない−          ●1415 部発行
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■       ◆ 技術戦略思考の実現   第4回 ◆
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■■         「イノベーションのキーになるもの」
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■■■          アイキット <技術戦略マーケティング> 代表 生島 大嗣
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今回は「イノベーションのキーになるもの」と題して話をしたいと思います。
第2回で「技術戦略が機能する環境作り」について述べ、戦略がうまく機能するため
には、私の提唱する3層構造の中で深層から表層への連携が欠かせないことを指摘し
ました。更に、人間の問題意識の持ち方にも言及しました。この部分は組織を構成す
る人に関係する部分です。

今回の話題「イノベーションのキーになるもの」では、組織の基礎である人に着目し
ていきます。

深層と表層とを繋ぐ連携システムはイノベーションの結果であり、このシステムの効
率改善だけからは核心を突くイノベーションは生じないのです。そしてイノベーショ
ンのないところには、有効な戦略は生まれ得ないのです。


▼ 再びイノベーションを起こす必要とは

ある企業の情報システム部の方とお話していたとき、こう言われた方がおられました。
「我々の組織のミッションは、基幹システムの効率化です」
この方は、方法論とミッションを取り違えておられたようです。
ミッションとは、何故情報システム部が存在しているか、基幹システムで何をしよう
としているのかという、もっと根源的なものから考えないといけないものなのです。

方法論を考えているだけでは、効率化という限定した範囲でのイノベーションは起こ
るでしょうが、企業の存在の核心を突いたイノベーションは起こり得ません。
そして根源的なもの、深層から生じるものがイノベーションを起こすキーとなるので
す。

深層から表層へ連携をもう少し詳しく考えると、
「コンセプト」→「ビジョン」→「目的」→「目標」→「戦略」→「戦術」→「アク
ション」→「フィードバック」
の順番に組み立てられていることが分かります。

ベンチャー企業や成長期の比較的小さい企業では、この流れが比較的単純で明確化し
ており分かりやすいのです。
各部門が必要なミッションは、組織を構成するひとりひとりがよく把握できています。
このため、必要な人材が必要な場所にうまく配置される傾向があります。

安定期の企業では、これらが複雑化してミッションが見えにくくなっています。
企業のミッションと反する部門のミッションが存在する場合もあるのです。
例えば、ある情報システムを普及するために作られた部署が使命を果たした後にも存
在し、その部署では存在理由をアピールすることがミッションとなってしまっている
例を見たことがあります。
のです。大きな勘違いですが、組織や人間の自己防衛本能と保守性のなせる結果なの
でしょう。

イノベーションを考えるには、もう一度企業のコンセプト、ビジョンという深層部分
に立ち返る必要があるのです。

それでは、事例を元に考えていきましょう。


▼ E社の例 〜 ヒューマンオリエンテッドな組織運営

200人規模の化学系のメーカーであるE社では、70人が研究者です。この会社は
創業当時から定年という制度がありません。
また、「必ずその人が持っている能力に合う仕事がある筈だ」という会社の方針に沿
って、その人を活用できる仕事を作るということを数十年前から行っています。

最近、この企業は最近のグローバリズム、短期利益誘導一辺倒の時代にあって、にわ
かに注目を集めています。
リストラ、コスト、収益性だけのモデルの限界が見えてきたということも原因ですが、
ここにはもっと本質的なことが絡んでいるのです。

E社は、市場を睨んだ独自のプロダクトアウト戦略を取っています。その上で、この
戦略を実現するための人事制度、社風等を流行りに惑わされることなく、長期間かけ
て地道に独自の方法で作り上げてきたのです。
その独自の方法というのが、ヒューマンオリエンテッドな考え方なのです。

従来の日本企業は、伝統的にタスクオリエンテッドな組織運営をしていました。
この方法は、まず仕事が先にあり、その仕事を誰にやらせるか、誰ができるのかとい
うことに着目して遂行するものなのです。その際、個人が何をやりたいか、何をした
いかは問題にはされにくいのです。

E社は、彼(彼女)は何がしたいのか、何ができるのかという人間中心の考えで組織
運営をしているのです。勿論市場を睨み、売れる商品の開発に繋ぐという努力は欠か
せません。

E社の例は、組織をマネジメントしていく際のヒントを与えてくれる好例だと考えて
います。


▼ 組織を構成する「人」の違い

ある日本の上場電機会社に勤務する上海出身の中国人エンジニアと話をしていたとき
のことです。彼は小学1年のお子さんがおられるのですが、日本の学校では競争心が
育たないという理由で奥さんとお子さんを上海に帰してしまいました。

またSamsung に勤める韓国在住の日本人エンジニアから、韓国企業には日本企業で
は最近希薄になってしまった向上心と競争心が豊富にあると聞かされました。

どうも海外から見ると、日本の組織は甘いと見られているようです。
また、シリコンバレーにいる友人から、最近次のような指摘を受けました。

「シリコンバレーの知的資本は India と China だと言われるくらいインド系や中国
系のエンジニアが活躍している。一方で、バイオの研究なんかは、日本人の研究者が
多く活躍している。彼らいわく、日本の研究者のレベルのほうが高い。ただ、その彼
らも結局アメリカに来なければならなかった理由があり、その辺りに日本の組織の限
界が見え隠れしている。
しかし、こちらのエンジニアは、レイオフもあり身分の保証もないのに、のびのびと
研究しているように感じる」

以上の例から全てを判断するのは危険かも知れませんが、どうも中国と韓国の人のエ
ネルギーは、競争心や危機感から得られるものなのかも知れません。また、アメリカ
社会の創造性は遊び心、想像力なのかも知れないと思っています。
残念ながら今の日本は、どちらにも徹しきれていないように思えるのです。
これをどのように改善して行けばよいのでしょうか。

組織を構成するコンポーネンツである「人」は十人十色、千差万別です。
自分の所属する組織を構成する「人」がどのような特質を持つかにより、対応は変わ
ってくるでしょう。本質は同じでも、対応はそれこそ無限なのです。問題は、如何に
して最適な解を探すかなのです。

余談ですが、以前経済産業省の役人の方に対して、海外に流出した優秀なエンジニア、
科学者が日本に戻りたくなるような国作りについて言及したことがあります。
そのときの彼の回答は、「そんな人は放っておけばよい」でした。
海外流出するエンジニア、科学者を多く見ている私自身は、とても放っておけばとい
う気持ちにはなれません。


▼ キーになるもの「人」

3層機能の連携強化は既存の業務の改善や効率向上には有効ですが、残念ながらイノ
ベーションは業務の効率向上だけからでは起こりにくいものです。イノベーションの
定義にもよりますが、根本的な革新を伴うものと定義すれば、答は深層に潜んでいま
す。表層や中継層のシステムだけではイノベーションを起こすには少々役不足です。

例えば従来のプロジェクト管理は、表層に近い時間、費用、品質を対象エリアにして
いました。これが、PMBOKでは
・管理目標:時間、費用、品質
・計画:スコープ、調達
・人間関係:人的資源、コミュニケーション
・リスク
というように、中継層領域まで拡大されたために、従来のプロジェクト管理に比べて
格段に有効なものになっています。ところがこれはイノベーションの結果であり、根
源的なイノベーションを起こすための仕掛けではないのです。ナレッジマネジメント
等のツールも同様です。

企業のコンセプトやビジョンといった深層の概念は人から生まれます。この意味では、
人は深層概念を形作るものと言えるでしょう。
(表層のモジュール化した機能も人により運営されるのですが)
第2回で、問題意識を人がどう捉えて行動するかについて述べましたが、この部分に
も密接に関係してくる問題なのです。

イノベーションを起こすためには、組織のイノベーション、個人のイノベーション、
そして技術を背景とする企業では技術のイノベーションが求められます。

技術のイノベーションは、人によってもたらされます。また、人によって構成される
組織によってももたらされることもあります。このため、ここでは人と組織のイノベ
ーションについて考えます。

個人の創造力は、行動の動機が関係します。これは、

・遊び心+想像力による向上心から生じるもの(自発的な色合いが強い)
・危機感、競争心による向上心から生じるもの(強制的な色合いが強い)

に大別できると考えていますが、実際はこれらの組み合わせが絡んでくるでしょう。
この結果、個人の組織の中でのポジショニングや問題意識の捉え方に影響を与え、最
終的には個人と組織の創造力を左右するのです。

そして個人の創造力を引き出すものが、組織マネジメントなのです。換言すると、組
織のイノベーションは、人材をどのように有効に使うかがキーになり引き起こされる
のと言えるでしょう。
組織としての評価制度、教育制度、社内風土、人材の採用方法等の組織のマネジメン
トが影響を与えます。これにより組織の創造力が影響を受け、最終的には生産性が左
右されることになります。

更に、E社の採用するヒューマンオリエンテッドな組織運営を採用するか、従来型の
タスクオリエンテッドな組織運営を採用するかでも結果は大きく違ってきます。
タスクオリエンテッドな組織運営をしていながら、個人にタスク管理では評価されな
い改革を求めても意識のレベルから付いて来られないでしょうし、組織による個人の
評価という部分で無理が生じてしまいます。
また、個人と組織のビジョンの差にも影響が現れるでしょう。
この結果として、評価結果に矛盾が生じ、個人の、そして組織の創造力に悪影響を与
える要因になり得るのです。


▼ 組織マネジメントの矛盾を解消する

ノーベル賞を取った田中耕一氏は、タスクオリエンテッドな組織管理ではなかなか評
価されなかったのですが、突然ノーベル賞というヒューマンオリエンテッドな価値基
準で評価されたのです。この結果彼が所属する企業では、彼に対するそれまでの処遇
とノーベル賞というヒューマンオリエンテッドな評価の間に矛盾が生じてしまいまし
た。

結果的にこれを解消するために、田中氏は新たなフェローというポジションが与えら
れたのです。うまく働けばこれは彼の所属する企業にイノベーションをもたらすかも
知れませんが、結果は田中氏の個性と所属する企業の考え方に左右されるでしょう。

人をどう扱うか、遊び心を伸ばすのかそれとも競争心を育てるのか、タスク中心にマ
ネジメントするのか人を中心にマネジメントするのかを明確化し、これを組織の中で
矛盾なく機能させることが、新しいイノベーションを起こし、更にこれを継続させる
ことに繋がると考えています。

人、組織は様々です。その特性を見極めて、それぞれに合った方法を探さなければな
りません。
現実にはそう簡単に割り切れるものではないのでしょうが、少なくともひとつの組織
のなかでは矛盾のない運営が求められます。
部署のミッションによっては、ひとつの組織の中でタスクオリエンテッドな管理を行
っている部署とヒューマンオリエンテッドなマネジメントを行っている部署を分けて
管理するのも可能でしょう。

また、根源的なイノベーションではなくても、日々のルーティンワークの中にも革新
を起こすヒントが見つかるかも知れません。もしそこで働いている人に創造力があれ
ば、そして創造力を活用する運営がなされていればですが。

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